千手(せんじゅ)
Senju
ストーリー
平重衝(しげひら…ツレ)は一の谷の合戦にて生け捕られ、鎌倉へ送られ狩野宗茂(ワキ)に預けられます。頼朝は重衝の無聊を慰めるべく、手越の長の娘・千手の前(シテ)を遣わせますが、重衝は出家の望みあるも叶わず、今更ながら東大寺の焼き討ち(父・平清盛の命による)の罪を悔やみ沈んでいます。
しかし酒宴での千手の舞に慰められて次第に心開き、琵琶をとって千手の舞いに合わせます。心通い、短夜を楽しむ千手と重衝。が、重衝は勅により再び都へ送られることになり、二人は名残を惜しみつつも、永遠の別れとなりました。
解 説
この能は、清盛の末子として何不自由なく過ごしてきた貴公子・重衝の絶望感と、重衝への憧れから同情に似た母性愛に変化していく千手の心理をどう表現するかがみどころでしょう。
非情な運命に身を置く切なさと無常感がただよう美しい曲です。
<ごまめの歯ぎしり コーナー>
①千手が宗茂の館に重衝を訪ねる場面、
♪(シテ)その時千手立ち寄りて (地謡)妻戸をきりりと押し開く。御簾(みす)の追い風匂い来る。花の都人に恥ずかしながら見みえん…♪
シテが謡の詞章通り妻戸を開ける型をとります。この謡と型のところは、都の貴公子に会う千手のドキドキと戸惑いと恥じらいを一緒に感じたいところです。風に匂うのは貴公子が焚く香でしょうか…
②最後ふたりが永遠の別れをする場面、
♪(シテ)千手も泣く泣く立ち出でて (地謡)何 なかなかの憂き契り。はや後朝(きぬぎぬ)に引き離るる袖と袖との露涙…♪
シテとツレが舞台中央ですれ違うような型をとります。都へ引きたてられていく重衝と、それを黙って見送らねばならない千手。ふたりの絶望感と切なさが舞台に溢れます。
いつも千手の面に涙が流れているように見えるのは私だけでしょうか。(…重衝は直面=ひためん なので、できればハンサムな方だと一層、場面が盛り上がるのですが…^^;)
by 梅基会 R