野守(のもり)
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能楽師 梅若基徳
Tenko
ストーリー
王伯、王母の夫婦は、天から鼓が降ってきて体内に宿る夢を見、生まれた子を「天鼓」と名付けます。夢の通り、天鼓は妙なる音色の鼓を打ったので、帝からその鼓を献上するよう命じられますが、拒んだ天鼓は呂水という湖に沈められ殺されてしまいました。
それ以後鼓は音が出なくなり(能はここまでをワキの語りですすめていきます)、帝は王伯を参内させて鼓を打たせようとします。恐れ躊躇した王伯でしたが、覚悟を決めて打った鼓は妙なる音を響かせました。親子の情が天に通じたものと感動した帝により、天鼓の法要が営まれ、喜ぶ天鼓の霊が湖面に舞います。
解 説
この能は「親子の愛情」というものがテーマでしょう。前後二段物ですが、通常のパターンのようにシテは同一人物ではなく前は「親」、後は「子」です。
前段は帝の命令を背いた事によって子供を殺された親の気持ちとその帝に盗られてしまった鼓が鳴らない為に自分が呼び出され、その鼓が鳴ったとき感じる親子の絆、後段の帝の回向を感謝し鼓を弄び鳴らし舞う少年との対比が観る側として面白く観れるのではないかと思います。
演じる側はそのどこに重点を置くかで表現方法に個性が出る能ではないかと思います。でもただの面白さでなく、この物語の奥に隠れていると思われる「権力者の理不尽による殺人」「残された親の持って行きようのない心の叫び」「誰にも邪魔されない父と子の魂の触れ合い」「権力に負けない真の芸術性」など現代にも通じるとてもメッセージの多い曲ではないかと思います。